僕は宮﨑駿アニメが大好きです。惜しまれつつ引退してしまいましたが、その後のジブリ作品を観ていると、どうしても巨匠・宮﨑駿がいかに偉大だったのかということをまざまざと感じさせられるに留まり、新しい感動はもう味わえないような気がしています。

僕の車には後部座席用のモニターがあり、長距離運転の時は子どもたちが退屈するので、DVDを流しておくのが通例ですが、安全面の配慮から運転席のモニターには映像が映りません。なので、延々何時間も映画の音声だけを聞きながら運転するという修行とも言える時間だったりするのですが、以前長男が魔女の宅急便を連続で2周観るという暴挙を敢行し、苦行にクラスチェンジした時のこと。
魔女の宅急便でおなじみのキキは、実はマーケティングの王道を歩んでいったことに気付きました。

話をすればそのシーンがハッキリと思い浮かんで再生されるくらい好きなので、本当は画像を交えて論じたいところですが、著作権について調べている内に疲れてきちゃったので、各々そのシーンを脳内再生しながら読み進められたし。

 

 

 

キキのマーケティングを考察するにあたって、まずはこれをご覧いただきたい。ビジネスの成長曲線と呼ばれるもので、その名の通りビジネスには様々な成長ステージがあり、それらを曲線で表現したものです。

 

魔女の宅急便業・創業期

 

キキは魔女界の「魔女のいない街に移り住み、魔女としての修行を積む」というしきたりに従い、13歳という若さで独り立ちすべく、愛猫ジジと共に移り住む街を探す旅に出ます。13歳と言えど村の外で暮らしていくには生計を立てなければならない。

辿り着いた街でおソノさんというパン屋を営む妊婦さんと運命的な出会いを果たします。お客さんがパン屋で買い物をした際に忘れてしまった、赤ちゃんのおしゃぶりを届けたことでおソノさんに気に入られ、パン屋「グーチョキパン店」の2階に下宿させてもらえることに。
「私、飛ぶしか能がないでしょ?」という理由から、特技を活かして魔女の宅急便を開業します。

「あんたが店番やってくれれば部屋代と電話代ナシってのでどう?ついでに朝ごはんもつける!」という太っ腹。何の伝手も無かったキキですが、場所代・電話代という初期費用をかけることなく、更におソノさんのパン屋さんのお客さんを紹介してもらうことで初期の顧客獲得に成功しています。

 

魔女の宅急便業・成長期

 

 

ここから、黒猫のぬいぐるみを届けてジジとトレードしてもらったり、貴婦人からの依頼を受けて電気嫌いのバーサとカマドに火を入れたり、時にはニシンとカボチャの包み焼きが嫌いな小娘に悪態をつかれたりしながら、「ああ、一生懸命やったからってそれが必ずしも喜んでもらえるとは限らないんだな」という社会の世知辛さを学んだ…かどうかはわかりませんが、順調に実績を積み重ねていきます。

途中、病気にもめげることなく、時にはバカでかいプロペラの付いたチャリで道路交通法違反スレスレの余暇を楽しんだりしましたが、ある日突然空を飛べなくなってしまうという、魔女の宅急便史上最大の事業継続の危機に直面します。キキが。

自分でも努力しましたが一向に復活の兆しが見えず、絵描きの姐御、ウルスラの元を訪れます。ここで絵のモデルにも抜擢されますが、以前助けてもらったお礼ということで恐らくノーギャラでしょう。

そんな中、再びキキの元に以前お届け物を承った貴婦人から連絡が入ります。以前の献身的なサービス提供が実を結び、初めてのリピーター獲得となりました
荷物がずぶ濡れになりかけたり、落としたり壊したりと配送業としてのクオリティは決して高くないのですが、これはキキの人柄が成せる業でしょう。
その貴婦人の依頼は、キキという人へのお届け物でした。ついでにケーキを焼きたいから誕生日を聞いてきてほしいと。粋。

涙混じりの昼下がり、事件が発生します。バーサが釘付けになっているTVに映し出されていたのは、停泊中だった飛行船が突風に煽られ制御不能に陥るという、ワイドショーも真っ青な大事件です。今にも弾き飛ばされそうな飛行船、それを繋ぐロープの先に居たのは…トンボことコポリさんじゃないですか!
居てもたってもられなくなったキキは貴婦人の家を飛び出します。

途中で清掃員のおじさんからデッキブラシを拝借し、意識を集中…飛んだ!けれども、扱い慣れていないデッキブラシは全くもって言うことを聞きません。
そんな中、どんどん状況が悪化していく飛行船。街のシンボルであるシティタワーに激突し、今にも墜落しそうな状態に!中継しているTV局、現場に居合わせた民衆が固唾を呑んで見守る中、

な… なんだあれは!?

鳥… 違います 少女だ!

少女が空を飛んで行きます!

デッキブラシに乗った魔女です!

キキが公共メディアに進出した瞬間です。
ついにスランプを抜け出したキキが、トンボめがけて飛んでいきます。
ぶら下がるトンボの体力も限界に達し、その手がロープから離れ地上に真っ逆さま!次に起きるであろう惨状に目を伏せる人たちがいる中…

空中で受け止めましたぁ!!

というアナウンサーの一言と同時に沸き起こる大歓声。地上に降り立ったキキは、民衆が見守る中、照れくさそうにヒーローインタビューに応えました。

キキは数奇な巡り合わせで、メディア出演を果たしたのです。
恐らく街始まって以来の大惨事、視聴率は相当なものだったでしょう。現地やTVでキキの活躍を見た人たちは、あの魔女は一体誰なのかググったに違いありません。
この出来事をキッカケに、街でキキを知らない人はいないくらいの知名度に駆け上ります。

 

魔女の宅急便業・安定期とその後

 

 

この出来事の後、キキの宅急便業が軌道に乗った描写が描かれています。店番をするキキの元には新しい友達やお客さんが訪れ、お父さんとお母さんにも「仕事の方も軌道に乗って、少し自身がついたみたい。」と手紙で報告をしています。
大変な創業期と成長期を乗り越え、安定期に入ったのです。

グーチョキパン店に飾られているパンで作った魔女の宅急便の看板は、いつの間にかホウキからデッキブラシになっていることから、普通はホウキに乗った魔女がデッキブラシに乗っている、というオリジナリティあるブランディングにも成功しているようです。

 

物語はここで幕を下ろしますが、成長曲線には続きがあります。提供したサービス内容が当時マイノリティで、キキの人柄も手伝って個人店としては成功を収めました。
次に直面するのは一人で受けられる注文の限界、個人事業の壁です。メディアに取り上げられたことで一気に知名度が上がり、キキの元を訪れる人は確実に増えます。

ここで事業を失速させないためには次の手を打つ必要があります。つまり、増加した注文を捌ききれる人材の確保ですが、魔女の掟にある通りその街に滞在できる魔女は1人だけなので、魔女以外の人を採用する…となると、これは空を飛んでお届け物をするという一番の特性が損なわれてしまいます。

これはちょうど、社名にフィルムと入っているのに今は医療機器メーカーとなっている富士フィルムや、ちっとも法律の話をしない法律相談所のようになってしまいますが、魔女の掟によって独占性が保たれ、他者が参入してくる恐れが無いという特異な環境から、結局のところキキは個人事業としての成功が終着点、ということで良さそうです。

この世界での情報インフラがどの程度整っているのかはわかりませんが、もしかしたらこのニュースを聞きつけた他の街の魔女も、同じく宅急便業を開業するかもしれません。もしこれ以上事業を拡大するなら、早い内に特許申請するなり、「魔女の宅急便」を商標登録した上で、自身のノウハウを活かして後進を育成するコンサル業にシフトも良いでしょう。
卒業生からは自分の売上から一定の割合でコンサルフィーをいただくのをお忘れなく。成果報酬型の従課金制にしてあげると利用する魔女たちの負担も少なくて良いんじゃないですかね。知名度の高い「魔女の宅急便」の看板を使いたければフランチャイズ化すると自動の収入源が増えて良さそうです。

他には、街と街を横断してUberEatsのような配送マッチングアプリを作って手数料ビジネスにする方法もあるでしょうが、運営とメンテナンスが大変だし、サービスクオリティが安定しないので収益は先細りそうです。

いずれにせよ、自動課金型のノウハウビジネスにしていければ魔女の宅急便はオーナー業へとクラスチェンジし、キキは自らお届け物をすることなく、生活の心配をすることなく魔女の修行に専念できるようになるでしょうが、冷静に考えてこんな魔女の宅急便は嫌だ。

 

そういえば魔女の修行って1年じゃなかったっけ?そうだとするならこの事業の目的は1年間キキ一人の生計を賄うことなので、衰退期を気にする必要はそもそも無いのかもしれないよね。後半の考察はなんだったんだ。

 

まとめ

 

人並みの魔女の宅急便愛から、原作を回想する描写が多くなってしまったのでまとめます。

●創業期
自身の強みを活かして開業
家賃、通信費無料で初期投資なし
グーチョキパン店での告知により広告費もなし
おソノさんの紹介により初期の顧客獲得

●成長期
紹介を元にコツコツと実績を積み重ねる
その過程でリピーターの獲得に成功
メディア進出により一気にブレイクスルー

●安定期
相変わらず固定費が無いのに注文は増加
収益は丸ごとキキの懐へ

●再成長期
△ 事業そのものの拡大→配送員を増やす
○ 後進を育成してコンサルフィーを受け取る仕組み
○ フランチャイズ化して上納金を受け取る仕組み
△ マッチングサイトを運営して手数料を受け取る仕組み

 

ということで、キキは非常に恵まれた環境で、13歳という若さで個人事業主としての成功を収めたのでした。

現実でもたった一人との出会いが生活を一変させることはよくある話。
僕たちも良い出会いに巡り会えるよう、自助努力したいものですね。
あとはこの話が運転中の僕の脳内での出来事だということを思い出していただき、何かを感じ取っていただければ、苦行を経て涅槃に到れる想いです。

 

   

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